確かに動いた心をなかったことにしてしまうのは、自分の心に失礼だから。

UNFADEDを観たから分かった、私がずーっとポルノグラフィティを好きな理由

率直に言って、前ほどポルノにときめかなくなっていた。自宅には、ファンクラブ「love up!」の更新ハガキが届いていた。中学生の時になけなしのお小遣いで入会してから16年、ポルノは好きだし人生で初めて沼落ちしたと言える推しだし、まあ追っておいた方がいっか、くらいになっていた。

なぜかというと、この頃は下北沢のライブハウスによく行くようになり、他の好きなバンドに比べてチケットが取れなさすぎる。ライブの頻度も少ないし、なかなか気軽に観にいくことができない。あと、古参になってきたせいか(諸説あり)、ファンクラブ先行でほとんどチケットが取れない。学生時代からずっと私の生活を彩ってくれていたポルノのライブや作品が、自分とは関係ないような、どこか別の世界のリアリティを欠いたもののように感じ始めていた。

 

とりあえず、2018年から始まったデビュー20周年のライブツアー「UNFADED」に参戦してから更新の如何を決めようと思った。なんだかんだ言ってしまうのも、やっぱりポルノのライブが大好きだから。ライブさえ観れば、きっと熱が再燃すると信じていた部分もあったのだと思う。

 

案の定、チケットは争奪戦。なんとか最後から4番目となる横浜アリーナ初日の席を獲得した。ツアー工程が進むうちに、ツイッターやインスタには、ファン仲間たちの興奮気味な投稿を次々見かけるようになる。

もちろん私だって何公演か申し込んだ。でも当たらなかった。そんなこと誰も意図してないんだろうが、やっぱり自分はポルノに呼ばれない存在なんだと思ってちょっと拗ねたし、これが運命だ、縁の切れ目なのだとも思った(今思えば、オタクの被害妄想ってこわい)。

 

そんなこと思いつつ、いつの間にか採用された事前に座席が分からない発券システムに翻弄されながら、開演ギリギリに着席。辺りを見渡すと、Tシャツやタオル、リストバンドなどグッズで身を固めたファンがたくさんいた。出がけに引っ掴んできた、数年前のラバーバンドを装着するくらいが精一杯の自分と比べては、増していく疎外感。広い広い横浜アリーナは静かに暗転して、緊張感が高まっていった。

 

 

懐かしくって楽しいだけのライブが始まった。

しんとしたアリーナの静寂の中に、轟音が響き出す。ずっと聴き続けている、昭仁さんの声と晴一さんのギター。オープニングから気負いすぎることなく、ラフな笑顔も見せる2人を見ていると、子供の頃から見ていたせいか、実家に帰ってきたような不思議な感覚を味わう。

 

始まって数曲。とにかく、懐かしくて楽しい!

 

18年前のアルバム曲「オレ、天使」という意表をついたオープニングに始まり、「幸せについて本気出して考えてみた」「東京ランドスケープ」など、ポルノの曲とともに過ごしてきた青春時代がキラキラと蘇ってくるのだ。

ただ、こちらは拗ねたオタクだ。正直に言うと、この懐古主義的でひたすら楽しいだけの空間に疑問と不満を、ちょっとだけ感じてもいた。「やたらチケット取れないけど、ポルノそんなもんなの?」というひねくれた感情が生まれる軋んだ音が、確かに体内に響いた。

ポルノのライブは楽しい。でもその楽しさはいつも、「踊れるから」とか「ヒットソングばかりやるから」とか、そういう質のものではなかったと思っている。

彼らのライブには「へそ曲」というものがある。確か00年代前半頃には彼らの口から説明されており、ファンにはすっかりお馴染みの概念。概ねライブ中盤くらいで披露される、既存の楽曲をちょっとプログレっぽく実験的にアレンジした、じっくり聴かせる曲をこのように呼んでいる。大胆すぎるアレンジに、賛否両論も生まれやすいけど、メジャーな地位を獲得してもなお、きれいにまとめ上げることだけを正解にしないポルノの探究心や向上心が私は大好きだった。

今回は挑戦しないの?単純に懐かしいねって言い合ってこのライブ終わっちゃうの?そんなスレた疑問ばかりを頭に浮かべていたまさにその時。1ブロック目の演奏が終わり、MCで晴一さんが語り始めた。

 

 

全ては壮大なフリだったと気がついた。

UNFADEDとは、色褪せないを意味する英語。ポルノとしてキャリアついに20年。サブスクリプションでポルノの全楽曲が配信を開始して、20年で作った全ての曲が横一線に並ぶことになった。今までのように、アゲハ蝶やミュージック・アワーがでかい顔をするでもなく、全ての曲が横一線。そんな時代の中で、ポルノの曲たちは全て色褪せずにいますか?と、アニバーサリーツアーで問いかけたかった」

 

実際には広島弁丸出しではあったものの、こんなことを一語ずつ丁寧に言葉を選びながら伝えていた。

 

随分と自らハードルを上げるMCだと思った。

セットリスト1ブロック目で、シングルやベストアルバム収録曲などを披露して、「とにかく、懐かしくて楽しい!」雰囲気へと自らが先導した直後。今のところ「どの曲も色褪せてない!」と言えるほどのレアな選曲はない。20年の歴史を背負いながら横一線に並んだ曲のうち、何が投下されるのか。もうここまでくると意地悪とも言えるかもしれないが、そんな底意地の悪い目でステージを見つめていた。

 

端的に言うと、その意地悪が壮大な杞憂だった。

 

「壮大なフリ」と言い換えても問題ない。自ら高く掲げたハードルはものともしないで、始まった演奏曲は「Swing」。

2002年リリースシングル「ヴォイス」のカップリングナンバーで、私はもう長いことポルノのライブを見てる気がするけれど、演奏を聴くのは初めてだった。

気だるいギターチョーキングから始まり、珍しく低音を響かせたAメロのボーカル、その暗闇を抜けて、音数の少ないメジャーキーのサビには昭仁さんのスコーンと明るい歌声が余計に切なさを演出する。

直感的に思った。この曲は、今の昭仁さんだから歌えるんだと。

お母さんを亡くした想いを綴っているという曲の成り立ちもそうだけれど、ここ数年でますます前へ前へ進んでいくようなまっすぐな歌声の安定感には磨きをかけているように思うし、どこか粘り気あるような色気を感じる瞬間がある。20代にはきっとなかった、大人の魅力が存分に活かされたSwingが今目の前で披露されている、と思った。

 

(・・そんなことは時間が経ったから言えるのであって、実際は選曲と素敵な演奏の衝撃のあまりパニックに陥っていた)

 

そして、そんな声の表情を存分に活かしたCメロのシャウトが印象的な「前夜」、「ビタースイート」と、予想もしなかったような新旧を織り交ぜたセットリストが続いた。私の頭は真っ白になっていく。多幸感に満ちた、この世の快楽を全部集めたみたいな、真っ白な風景に、感動は加速していくばかりだった。

 

ビタースイートといえば、初お披露目はライブツアー「BITTER SWEET MUSIC BIZ(2002)。映像化したツアー最終日もWアンコールで披露され、武道館4daysを経た昭仁さんの声は限界寸前だった。高音が出ない中苦しそうに歌っている映像を中学生の時に見た衝撃は、今でも忘れられない。

その高音を克服していたのが、3年後のツアー「SWITCH(2005)の武道館5daysでのことだった。あの日と同じ武道館で、綺麗な高音を惜しげもなく響かせていた(その現場がまさに私の人生初ライブ参戦だった)。

 

その後ファンクラブライブ以外で聞いたのは10周年記念の単発の東京ドーム公演1回きりだったので、本人たちにとっても大切な曲であり、自分たちの状態を示す曲だという思いがあるのかもしれないと勝手に思っている。だとしたら、今回は余裕しか感じなかった。ボーカルの発声はもちろんのこと、晴一さん使用のV型ギター(昨年、Jimmy Wallaceで購入していた新入り?)からも目が離せなかった。逆光気味でスモークの効いた舞台に、ギターのV字が浮かび上がる。もやのかかった舞台から、動じずに太い太い音を届ける二人。その姿はさながらロックスターだった。

(ちなみに、映像をちゃんと確認しないと自信がないのだけど、キーを1個下げていた?それくらいボーカルパフォーマンスに余裕があるように見えただけ?)

 

曲が終わり、余韻に浸る暇もなく、線が太く無骨なロックナンバー「ライオン」が続いた。かと思えば、突然シンセの高い音が耳をつんざき、打ち込みっぽいリズムの小気味好さが不思議なくらい気味悪さを演出し始まったのは、「Zombies are standing out」。2018年に初めて配信限定の形でリリースしているということもあってか、どこか実験的なイメージのあるこの曲。ゾンビのうめき声のようであり、何かを心の底から叫ぶようであり、まだまだ新しい表現に挑戦するんだというポルノの強い強いメッセージを感じる。

ただただロックナンバーが続くだけではない、ポルノの20年間の引き出しの多さまでもを提示するようにして、セットリスト上、2つ目のブロックは見事に完結したように感じた。

 

「1:1」のポルノに、最上級の祝福を注ぎたくなった。

続くのは昭仁さんの弾き語りコーナー。ゾンビの緊張感から一転、小鳥のSEで出てくるアコギを抱えた昭仁さん、とにかくゆるい。

 

「なんでこんな歌詞作ったかわからない・・」と朗らかに笑いながら一節を披露した「見つめている」。そして「ファンの皆さんに好きって言ってもらってとても自信がつきました」と語って披露したのは「夕日と星空と僕」。

昭仁さんの言葉は、どこまでも嘘がないように感じる。特に20代の頃の昭仁さんは「声がいいと言われても、これは親からの授かりもんだから」とプイっと発言していたのを思い出すが、その声を使ってどこまでもまっすぐ嘘なく表現を届けられる力は、昭仁さんの一番の魅力であり才能であると思う気持ちがますます確信に変わっていった。

 

暗転とともに、静かに弾き語りのコーナーが終わる。スポットライトの強い明かりの先には、ギターを携えた晴一さんの姿。自分のギターを聞けと言わんばかりの溜めとともに、フレーズが進んでいく。始まったのは、ギターがメロディーを受け持つインスト曲「didgedilli」だった。

晴一さんがギターの音を擬音化させたという造語がタイトルの由来である。少しザラみがあるような、「L」の発音に備わった色気も感じるような、確かに晴一さんの初期のトレードマークであるGibsonレスポールの音色を思わせる世にも奇妙で心地よい語感。今回の演奏も、もちろんレスポールで。いつか、いつか、生で聞いてみたいと思っていたインスト曲の予期せぬ披露に、ただただ息を飲んだ(飲みすぎて、やや過呼吸になった)。

 

ところで、過呼吸でボーッとした頭でふと思っていた。ボーカルの弾き語りコーナーの後、私は(いや、他のファンの方もそうだったんじゃないかと思う)間違いなく、心の中で「このあとは晴一さんのコーナーだろうな」と予想した。これって実はすごいことなんじゃないかと思う。20年間常にヒットチャートの第一線を走り続けてきたポルノだけど、だからこそ世間的には「ボーカルの滑舌がいい」「唯一無二の歌声」、最近では「口から音源」など言われていて、ボーカルの認知の方が高いはず。

しかしそこはポルノグラフィティ、ボーカルとギタリストの持ち時間は1:1。メンバーが2人だからという事情もあるかもしれない。けれど、どちらがメインになるでも引っ込むでもなく、互いが互いを尊重しあって作品作りをしていることがありありとわかる、象徴的なシーンだとしみじみ噛み締めた。

ポルノグラフィティ、本当に20周年おめでとう。

 

終わらぬ夜の祝祭を。未来永劫にポルノを推したくなった。

その後、「フラワー」や「カメレオンレンズ」など、最新曲が演奏されると、「オー!リバル」「ハネウマライダー」など、ライブでの定番ソングが続いた。

ただ、やっぱり単なるヒットメドレーではないのがポルノ。いつもならアンコールオーラスで聴くのが定石の「ジレンマ」は珍しく本編で、よりリズムがはっきりしたアレンジになっていた。初期のミリオンヒット曲「サウダージ(2001)は、発売頃のメインギターではなく、2006年頃からメインになったFenderの黒いテレキャスターが採用されていた。

ギターに関して素人ではあるものの、なんとなく、レスポールはポーンと1音鳴らすだけで重厚感とロックの激しさが感じられるスター性があり、テレキャスター1音鳴らしたとて、キャン!と鳴く芝犬のようなつるんとした健気な音、というイメージがある。つまり、素人が考えてたどり着いた答えとしては、レスポールを使えばロックぽくなるのだ。だけど、我らが晴一さんはそこをあえてテレキャスターに持ち替えた。これって最高にロックなのでは・・・?というのが私の素人的考察である。テレキャスターの良さを活かした、リズムっぽいカッティングや、ニュアンスで伝えるフレーズ、そんな晴一さんの演奏が私は大好きだ。

何が言いたいかというと、ラテン風の曲調にベース音も強く響く「サウダージ」で、テレキャスのキャン!という音を普通に鳴らしたって世界観を壊しかねない。けれど、そんなことをものともせずに、晴一さんから放たれる音は11つ全てが美しいほどに艶やか。音色が一層曲の女々しさと哀愁を醸す。20年来のヒット曲たちにも挑戦を忘れない、今この瞬間から続くポルノの未来がもっともっと見てみたくなる、そんな演奏を堪能していた。

 

本編最後は「∠RECIEVER」で会場中にポルノの強さが響き渡り、アンコールでは「人でなし晴一が書きました!」との触れ込みで始まる「タネウマライダー」(2006)。今だったら概ねネットで叩かれるとか言いながら、20周年でわざわざ蒸し返して披露する微笑ましさったらなかった。

 

大トリを飾る「ライラ」は、まだまだ終わらない夜の宴を、これからのポルノの音楽を、歌って踊ってクラップで会場中が演奏者かのように奏でる。なんだか、今でもあのライブが続いているような気分になるのは、あの時の「ライラ」がまるで日常に表れた祝祭みたいに、素朴な華やかさを心に落としてくれたからなのかもしれない。

 

単なるオタクへの帰還、そして東京ドームへーー

こうして、拗ねたオタクだった私は、単なるオタクへと帰還したのだった。

難しいツアーコンセプトを自ら設けておきながら、自身の楽曲を武器にその世界観を目一杯に表現する技量。まっすぐで嘘のない昭仁さんと、ロマンチストで永遠のギター小僧な晴一さんとの、互いを認め合っているチームワーク。そして、どれだけポルノが大きくなろうが、時間が経とうが、絶対に挑戦を疎かにしない姿勢。今までなんとなく感じてきたことが、UNFADEDを見てはっきりした。だから私はずーっとポルノが好きなんだ。

 

拗ねたオタクから、無事ただのオタクへ帰還した私に、この公演中に朗報が届けられた。

 

2020年9月、東京ドーム2days公演の決定。

 

発表された瞬間、一緒に行った10年来のポルノ友達たちとジャンプしながらハイタッチして、声が枯れるまで狂喜乱舞したあの空気感は今でも忘れられない。love up!限定の2日通し券で、いつもの仲間たちと楽しんでこようと思う(お気付きの通り、横浜アリーナに行った翌日、速やかにlove up!の更新手続きを済ませた*1

 

ポルノには、他の好きなバンドのように頻繁には会えない。チケットだって、人気があるから取りづらい。でも、推しがずっと活動し続けてくれているなんて、しかも人気でいてくれるなんて、本当は何よりも幸せなこと。これから10年も20年も30年先もいつまででも、全力でファンでいたい。そう心から思わせてくれた、UNFADEDツアーだった。

 

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*1:実は自分名義のファンクラブ先行は外れてしまい、ありがたいご縁で行かせて頂いたのだけど、今回は拗ねなかった。ポルノ、今日も売れてる。)。