確かに動いた心をなかったことにしてしまうのは、自分の心に失礼だから。

VSを聴いて、先人ではなく過去の自分と向き合うことがポルノにとっての前進なんだと気づいた

ポルノグラフィティのシングルが50枚目と聞いて、素直に驚いた。たった1枚、世にデビューするCDその1枚を夢見て瀬戸内海の小さな島から上京してきた2人が成し遂げた、デビュー20周年と50枚にも上るシングルCDのリリース。もはやいちファンでありながら親戚のおばさんみたいな感覚になってくるが、本当に感慨深い。おめでとうございます。

 

そんな記念すべき、20周年50枚目のシングルの歌詞。とにかく胸を打つ。

まずはサビのこの一節。

 

 バーサス 同じ空の下で向かいあおう

あの少年よ こっちも戦ってんだよ

 

「VS」と名付けられたこの曲は、過去の自分を思い出しながらも、懐古するだけではなく、その頃の自分に負けないぞという気合いが、強くも美しい言葉で展開されていく。20周年、そして「タッチ」のその後を描いたというアニメのタイアップに、これ以上のテーマがないというほど美しい、作家・晴一の刻印がぎゅっと押されたアニーバーサリーソングになっている。

 

ところで、「戦う」という強い語彙を軽やかな言い回しで表現するこの耳障りから連想するのは、5周年ライブ「PURPLE'S」で初お披露目された「プッシュプレイ」のこのフレーズだ。

 

耳を塞いでいる奴らにまで

聞こえるように馬鹿でかい音で

「その拳突き上げろ」と唄う

あのロッカーまだ闘ってっかな?

 

この、「闘ってっかな?」という言い回しが、妙に思い起こされた。

ここで闘っている人物は、自分たちが少年時代に憧れ続けたロックスターたち。元々カウンターカルチャーとして発生し、認められるどころか禁じられていたロックという文化を、それでも実力で切り拓いてきたロックのレジェンドたちへの思いが綴られている。現代を生きる自分らもカウンターの気概を持って、闘う気持ちで音を奏でるぞ、という、2人体制で迎えた5周年の所信表明とも言える強烈なメッセージソングだ。

 

どちらも、自分たちの音楽活動における”たたかい”を表現した、メッセージ性の強い楽曲。しかし、たたかう相手も、たたかい方も、まるで違うことに気がつく。

 

「プッシュプレイ」では、ロックカルチャーを作ってきた先人たちに恥じぬように、世の中に迎合せずとも自分たちで世の中の潮流を作るために闘うのだ、という考えがうかがえる。

一方の「VS」は、音楽の世界で生きていくことを夢見る少年時代の自分に対して、結果的にこれだけのキャリアを積み重ねて来れたのは当時の自分の情熱があってこそという感謝を思いつつも、その情熱に負けないくらいの気合いで今だって音楽をやっているぞと胸を張って宣誓しているのである。

 

世間の中の立ち位置をしっかり確立するための闘いをしていた5年目と、

自分がやりたかった音楽というものを今も初心に忠実にやっているからこそ、初期衝動を持った自分と戦う20年目と。

ここに鮮やかな対比が生まれていると思う。

 

そもそも、少年の曇りなきまなこで見た夢の続きに今もいられるということは、移り変わりが早くシビアな音楽業界の中で、彼らがポルノグラフィティという立ち位置を勝ち取っている証し。15年前に「プッシュプレイ」で宣言した通り、世の中と闘い続けてきたからこそ、彼らは15年後に初期衝動にもう一度向き合い、ポルノらしさを成熟させようとしているのではないかと、そんな風に思えた。

 

先人ロッカーたちに恥じぬようにという想いは、少年時代の自分らに恥じぬようにという想いへ。

 

誰かと比べてどうなのではなく、内省的になって戦おうとするなんて、これからどんな”ポルノらしさ”を成熟させていくのか、私たちに届けててくれるのかが楽しみで仕方なくなる。過去を思い出す表現は、ともすると「昔は良かった」みたいな雰囲気にもなりかねない中、「VS」はむしろ未来を見せてくれる、ファンには本当に嬉しい曲だ。

 

偶然だと思うがどちらも5周年と20周年というアニバーサリーのタイミングで披露されたこの2曲。自分がやりたい表現をまだまだ突き詰めてくれそうなポルノグラフィティに、期待しかないのである。早くCD買いたい。リリースが本当に楽しみだ。